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「これがたとえばアニメや漫画の敵なら、さっくり倒してお終いにできるのかもしれないが、私が懲らしめた奴等は違う。いくら私に倒されたからといって、それでキッパリ出番がなくなるなんてわけではないのだ。
「奴等は今もまだこの辺りを普通に彷徨いているのだし、あるいは私が悪行の邪魔をして逮捕された連中だって刑期が終わればまた戻ってくる。そして奴等はきっと私への復讐を企むだろう。もしそれを繰り返せば、いくらまだ多少残っているとはいえ、抜くことのできる髪の毛の本数に限りがある私の方が不利だ。
「じゃあヒーロー活動からきっぱり足を洗おうかと言ったところで、今度は世間の目がある。なにせ、私は全国ネットで『自分はヒーローだ』と宣言している。顔バレもしている。そんな状況で犯罪を野放しにしてみろ。『あの時の事件は救ったのに、今回は見捨てるのか』という非難は免れない。そうなれば就職だって難しいだろう。これが、現在の私が過去の私を愚かだと断定する根拠だ」
◇
正直、あまり聴いていて気持ちのいい話ではなかった。メモを取りつつ、心の中に靄のようなものが形作られていくのを私は感じていた。
確かに、頭ではちゃんと、物語の中に登場するようなヒーローなどいないというのは理解していた。しかし、それとは別に、私はやはりMr.バルドヘッドならもしかして、と期待していたのかもしれない。
が、現実は予想以上に現実で、髪の毛を食べることによって発動するという超能力を除けば、そこにあるのは生々しいほどのリアルだった。
「……自衛のためにも、せめて私が死ぬまでは毛髪を残す必要があるのだ。自らを守るためにも、かつてのように無闇矢鱈と抜毛することは実質的に不可能になった。しかし、だからと言ってヒーローを辞めることもできない。そこで私が考えたのが、これだ」
と彼は握っていた茶色の封筒を振った。
「えっと……どういうことですか?」
「だから、お金だよ。つまり、私の活動をボランティアからビジネスに格上げしたのだ。ここに入ってるのは、さっき君を助けた分の報酬だ」
もう少し詳しい説明を、と問い返そうとしたところで、私は違和感に気が付いた。
「って、えぇぇっ!? それ、さっきの私を助けた分のお金なんですか!?」
「そうだが」
「えっ、だって、私払ってませんよ!?」
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