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「あぁ、安心したまえ。依頼者は別だ」
「依頼者は別……? すいません、ちょっと理解が追い付かないのですが……」
「つまりだな、たまたま君が路地裏に連れ込まれるのを目撃していた人がいてな、彼が私に依頼したのだ。『若い女の人が五、六人の男に囲まれてどこかへ連れていかれた。助けてやってくれ』と」
「そ、そうだったんですか……」
「まぁ、依頼ではしょうがないからな。その場でこちらから依頼料を提示し、互いに合意が形成されたことを確認してから契約書にサインしてもらった。なに、急場ではあったが、そのような場合に備えて契約書とペンは常に持ち歩いてる。もちろん、身分証と住所のの確認も忘れずに行ったぞ。金をふんだくられたら堪ったものじゃないからな」
「そんな悠長なことしてないで早く助けに来てくださいよ!!」
いや、助けてもらった立場が言うことじゃないような気もするけど、逆に助けてもらった立場だからこそ言った方がいいような気もする。
「ビジネスだからな、仕方あるまい。それに、契約が成立してからは全速で君の救助に向かったぞ」
そう返す金谷さんは全く涼しい顔で、私は釈然としない気持ちをなんとか呑み込んで話を続けた。
「……ともかく、さっきの来客はその人だったわけですね」
「そういうことだ」
「あれ? でも、じゃあ、どうやってその人は金谷さんに連絡を取ったんでしょう? あぁ、もしかして、有事の際に助けを呼べるよう、金谷さんは電話番号や住所を公開してるとか……? なるほど、それだ! だからあの人も直接ここへ来れたんですね!」
「いや、違うぞ」
「えっ?」
確信した答えを一瞬でひっくり返されて思わず戸惑う。違うの?
「確かに私の家の住所は広く知られているが、それは単に私の面が割れているからご近所様にバレてしまっただけだ。そもそも私は電話越しで依頼を受けたりしない」
「じゃあ、どうして……」
「別に、君が襲われた時、たまたま私が近くを通っていただけだ」
「金谷さんが?」
「うむ。さっきから言っている通り、私は顔バレしているからな。近くに居さえすれば見つけるのは簡単だ」
いや、そういう問題ではなく。
「じゃあ、私が怖い人たちに乱暴されそうになっていたことは?」
「気付いていたな」
「助けるつもりは、」
「依頼を受けるまで皆無だったな」
「…………」
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