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「しかしまぁ、私も思わず頭に血が昇って力加減を誤ってしまったことは認めるが、君も助けてもらった恩人に対する態度としてはなかなかに酷かったぞ」
「それはもう、えぇ、返す言葉もございません……。本当にすいませんでした。なにぶん、想像とギャップがあったもので……」
「ギャップ?」
彼の片眉が怪訝そうに吊り上がった。
「はい、私が調べた限りでは……あっ、実は私、こういう者でして」
と鞄から名刺を取り出して渡す。
「野井田 論子……フリーライター?」
「はい、普段は少年犯罪の問題を取り上げているのですが、そのツテでたまたま知り合った警察関係者の方から『新宿にちょっと面白い奴がいる』との情報をいただきまして」
「……もしやとは思うが、それが私だということか?」
「はい。その方によれば、『あいつはリアルバットマンだ』とも。実際、二十三区内でもワーストクラスだった新宿区の犯罪率が、Mr.バルドヘッドが活動を始めた三年前から劇的に改善されているそうで」
「……さらにもう一つ、俄には信じがたいが、まさか君は私の取材に来たのではあるまいな? それも、アポもなしに?」
「す、すいません! まずは近隣住民の方に聴き込みをしようと思って、それで……」
「うっかりゴロツキに接触して、路地裏へ引き摺り込まれたと」
「……返す言葉もございません」
彼はフンッと鼻を鳴らすと、目の前で名刺をビリビリと破いた。
「あぁっ」
「すまないが、私は取材を受け付けていないんだ。マスコミは嫌いでね。具合が良くなったのなら出ていってくれたまえッ!!」
「そ、そんな……」
名刺を破かれるという真っ正面から当てられた敵意に、怒りよりも恐怖が勝り、思わず声が萎む。
そのせいで、消化不良の私の不満が思わず口から零れ出た。
「あの時は取材に応じてたじゃないですか……」
「あの時ィ?」
彼の目がギラリと凄みを持つ。アカン、ちびる。
「さ、三年前の『熱情大陸』の密着取材です。あ、あの時はMr.バルドヘッドさんだって……」
「……あぁ、なるほどな。ようやく合点がいった」
「え?」
「つまり君は、一応取材前に私のことを調べようとして三年前のあの番組を視たのだな? なるほど、確かに三年前の愚かな私はまだ髪の毛もフサフサだったからな。君が、こんな──」
と言って彼はニット帽を指した。
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