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金谷:「男から超能力を得た直後だな。私はすぐ会社を辞めて、たまたま授かったこの力で社会を変えていこうと決意したよ。
「……いや、違うな。社会を変えようとしたのではない。私は手に入れた力を誇示したかった。そして、人々に尊敬されたかったのだ。だから、私はヒーローの真似事を始めた。完璧な善人を目指し始めた」
──三年前に放送された『熱情大陸』という番組を観る限り、確かに正義の味方のように思えたのですが……
金谷:「フン、私がなぜテレビの取材を受けたか分かるか? あの頃の愚かな私は、ただチヤホヤされたかっただけなのだ。
「顔出しをOKしたのはそれが理由だ。『ヒーローは逃げも隠れもしない』などというそれらしい大義名分を掲げてな。いやはや、色々な意味で本当に愚かだ……」
──当時から活動範囲を新宿に限定していたのはなぜでしょう?
金谷:「いくら愚かな私と言えど、日本中を飛び回ってヒーロー活動をできないことは分かっていた。その不可能性と正義の間で揺れる私は、ご当地ヒーローというものを考えた。つまり、私がこうして新宿で地味に活動を続けていれば、いずれ全国各地で私に続くものが現れるだろう、とな……
「もちろん、それは詭弁に過ぎない。これはただの言い訳だ。しかしまぁ、愚かだった頃の私にしては合理的な判断だったと言えなくはない。ハゲしく……ではなくて、猛烈に間違ってはいるがな」
「ともかく、そうしてテレビにも出て、活動範囲もきっちり決めて、そのせいで余計に私は我武者羅に人助けをするようになった。毎日が全力だったよ。いや、そのお陰かな。なぜなら、その結果私は自らの愚かさに気が付いたのだから……」
◇
「先ほどから仰っていましたが、金谷さんの愚かさとは一体なんだったんですか? 私にはとても崇高な活動に思えるのですが」
私がそう言うと、彼は急に吹き出して笑った。
「……そんなに可笑しいですか?」
「いや、何でもない……プッ、ハハハッ。ただ、なかなか察しの悪いフリーライターさんもいたものだなと思ってね」
いや、すまない。と彼は涙を拭き拭き、
「君ならもうとっくに気付いていると思ったよ。要するに、私の愚かさとはコレだよ」
と自らの頭を指差した。
「えっ?」
「まだ分からないか? じゃあ、ヒントを上げよう」
彼は人差し指を一つ立てた。
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