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「ひとつ。君が観た『熱情大陸』の頃の私と、今の私の間には何かしらギャップがある。だからこそ君は私に初めて会ったとき驚いた。そうだな?」
その通りなので頷くと、彼は続いて中指もピンと立てた。
「ふたつ。私の能力は、自分の髪の毛を引っこ抜いて、食べることで発現する」
「あっ」
間抜けな声が私の口から洩れた。そうだ、さっきから……分かってたはずなのに。
「そうだ。私の正義活動は、すなわち私の毛髪と引き換えに行われなければならないという運命だったのだ」
◇
金谷:「全く、当時の私はなぜ気付かなかったのか不思議で他ならない。しかしまぁ、私はある日、鏡を見て右前頭部のハゲに気付き、その瞬間、自らの愚かさを悟ったのだ。ヒーロー活動を始めて、一年程経っていたかな」
──割合、すぐに気付かれたのですね。
金谷:「すぐだって? いやいや、むしろ遅いくらいではないか。それまで私は毎日のように、何本も何本も『正義のため』と髪の毛を引っこ抜いていたのだぞ? 明らかにハゲが進行するまで気付かないなんて、いかに盲目的か分かるだろう。
「ついでに知らないのなら教えようか。人間の髪というものは、大抵一つの毛根につき三本ずつ生えている。しかし健康なその毛を一本無理矢理に引き抜けば、それはそのまま毛根のダメージに繋がり、ひいては残りの二本にも影響する。自ら髪を抜くという行為にはそういうリスクがあるのだよ。
「それを恒常的に行っていた私の頭皮がいったいどれだけ甚大な被害を被っていたか、想像したくもないね」
──ヒーロー活動を休止なさったのは、それが理由なのですか?
金谷:「二点、訂正を求めたい。まず、今の君の『えっ、それだけ?』みたいな態度が気に食わない。貴様のようなフサフサヘアーに何が分かる。
「それともう一点、私はヒーロー活動を休止した訳ではない。それは過去の私の愚かさに起因するのだが、とにかく今日までヒーロー活動を辞めたことなどないぞ」
──過去の愚かさに起因するとは、どういう意味でしょうか?
金谷:「ヒーローになったばかりの頃の私がやっていたことは、慈善活動というよりもむしろ勧善懲悪だ。新宿の犯罪率の高さを嘆き──いや、ここなら思いきり腕が振れると思ったのかもしれないが──とにかく、悪党どもをやっつけることを目的にしていた。
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