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◇ ◇ ◇
次郎と話した翌日、慎は知人の元へ出向き、法律関係の助言を受けた。
とって返したその足で、慎は慎一郎の籍を高遠家から尾上家に移した。次郎には事後承諾で結果だけを伝えた。当然、次郎は反発した。無視した。
お前は今日から尾上慎一郎だと告げられた次男は、一瞬、傷付いた顔をした。
息子は必死に言葉を探し、やっとのことで言った。
「ここから出ていかなくてはならない? 住むところが変わってしまうのはいやだ」と言った。
胸がきりりと痛む。
「私は君を失う方が嫌だ」
良心の呵責が慎を責める。
お前は息子の意志を無視している。
――わかっている。
内心の声に逆らい、畳みかけるように続けた。
「今までと何も変わらない。住む場所も学校もそのままだ。卒業までの心配は一切ない。そのかわりお前は白鳳大学へ行き、私の後を継げ」
瞬きもせず父の言葉を聞いていた慎一郎は、今度は「はい」とだけ言った。
どくんと、胸が大きく脈打ち、痛みが堪える。
私は、息子が子供の頃から願っていた職業への道を閉ざし、彼の夢を奪った。
いや、そうじゃない。
私は君に安泰な未来を用意した。言われた通りにすれば何の心配もないのだよ。
胸を押す痛みが、増すばかりで止めようもない。
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