3人が本棚に入れています
本棚に追加
全てを押し切ろうとする、君の悪いところだ、と静かに諭す次郎の声が聞こえる。
うるさい! それがどうした!!
私は息子の為を思って最善を尽くしたいだけだ!
「慎先生?」
腕をとても親切とは言いがたい力で叩かれ、はっと我に返った。拳を握り締めて直立不動の姿勢で立つ武がいた。
「何でくの坊みたいに突っ立ってるんだ。大男が学校の廊下のど真ん中を占拠するとここ通る皆さんの迷惑だよ」
武は生返事しか返さない同僚の腕を容赦なく引っ張る。
「ともかく、ここでの立ち話もなんだから、場所を変えるよ、いい?」
「場所……」
「奢るよ。たまには二人で飲みに行こうよ。良いお店を知ってるんだ」
「うわばみの君とサシでか? 勘弁してくれ」
「そっか、残念。まあ、歩きながらでも話はできるか。いい?」
友人は時として一方的に圧しまくる存在になる。
慎は彼のなすがままだ。まるで自分の倍にもなりそうな大型犬の首根っこに鎖を付けた子供に、散歩と称して連れ回されている姿そのもので、圧される一方になる自分はやはりフヌケになっていると感じていた。
犬に逆らうことは許されない。
「どうだった」
「どう、とは」
「茉莉花さんのお兄さんに会ってきたんだろ。たしか病院で会ったよね。杖ついてた人がいただろ」
最初のコメントを投稿しよう!