濡れた仔猫

6/7
147人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
あの雨の日から3年 飼い主は何も変わらない 男を連れ込むアバズレぶりも 同居人の私にさえ名前をつけない執着のなさも たまに『こんな思いするなら生れてきたくなかった』みたいな目をするところも…… それにくらべて私は変わった 例えば汚れていた白い毛は今となってはつやつやだし 触り心地も血統書付きに負けないくらいのものだ。 やせっぽっちだった体はまるまるとなり、さらに長い毛のおかげで大きく見える。しっぽはふわふわ、自慢のしっぽだ。 飼い主にじゃれつくときは爪をしまう それは、君に初めて触れた時にすぐに覚えたこと 私がふれたら痛そうに手を引っ込めたから トイレは砂のところで 虫を捕まえても君には見せない 嫌がるから ベッドの上の息使いが荒くなり 節操のない飼い主は、態勢を変えて男の上に乗る 白い背中はやせっぽっちで 長くて黒い髪がしっぽのように二つの三角骨の間に流れる そして、君はなんど他人に触れても爪のしまいかたを覚えない。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!