第1章

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「なるほど、彼氏が他の女性と腕を組んでいる所を目撃してしまった、というわけですね、内田さん」 「……」 「つまり依頼は、浮気調査。対象者は彼氏さん」 二の句も告げなかった。当たってる。心を読んでほしい人も、内容も、私の名前も。 ──覚野さんは本当に人の心が読める。 「内田さん、浮気調査なら、一万円になります」 「一万円?」 「──ていっ!」 変な言葉とともに、身を乗り出して私の肩に触れた。 「あっ……」 心を読まれた。料金に対する思いを。 「あれ?安いって思ったんですか?」 「はい。一万円で彼の心が知れるなら安いものです。というか、急に読むのはやめて下さい。心の準備が出来ないじゃないですか」 「あぁ、ごめんなさいごめんなさい。もうしません、許して下さい」 「いや……そこまでは怒ってないですから」 及び腰だったり、生き生きとしたり。かと思えばまた及び腰。コロコロと変わる彼が、ちょっと可愛くて、可笑しかった。 「は、話を戻しましょう。内田さん、浮気調査で間違いないですね?」 「はい。あっ、料金は先払い?」 「半分を前金として頂いて、残りは依頼後というシステムでやらせて頂いてます。全額先に受け取って、その後の依頼は適当にでっち上げることが出来たりしますからね、僕の場合」 「……ん?先でも後でも、でっち上げること出来ますよね?」 「……そう言われてみると、そうですね。やはり僕には、商才と呼べる物はないようです」 「私の前でそれ言います?ふふっ」 本当に面白い人。それに私には、覚野さんが適当にでっち上げるという器用な真似が出来る人とは、到底思えなかった。
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