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「はい。それが、一応の店主をやってる理由でもあるんですよ。本来の店主が、僕の心が読める力を商売にいかそうとあの看板を出したんですが、その店主が何故か自分探しの旅とか言ってどこかに行ってしまいまして。それで仕方なく僕が店主を。しかし僕には商才がないので看板だけでも仕舞おうと思ってるんですが、何故かそういう時に、お客様が現れるんです。だから看板も仕舞えずじまいで……」
それがこの店の事情。私が疑問に思ったことの答え。
それも、読まれてたってこと──。
「あの、覚野さんって秘密主義者なんですよね?店の事情とか、バンバン明かしてません?」
「内田さんの心に、その疑問があったので……心を読んだお詫びとして、教えようかと。でも、ご安心下さい。依頼のことについては、内田さん以外の方には、絶対に話しませんので」
そう言う覚野さんの瞳には、強い意志が宿っていた。
そして、三日後。
帰り道を覚えて、覚野さんの手を煩わせないようにしようと思っていたけれど、無理だった。
右か左か真っ直ぐか。駅を出てからどの道に行けばいいのかもう分からなかった。電話するしかなかった。
そして今、対面の形で座りあっている。覚野さんの表情は悲しげだ。
「内田さん、彼氏さんの心を読みました。確かに、彼氏さんには、内田さん以外の女性の方がいるようです。けど……」
「けど?」
「彼氏さんの心を読んで気になることがあったので、その女性の心も読んだんです。──これは僕の勝手な行動なので料金は発生しません。けど、その女性と彼氏さん、二人に共通してる事情がありました……二人は婚約者で、近々結婚式を挙げるそうです。つまり、彼氏さんにとっての浮気相手は……」
「…………」
覚野さんに適当な嘘をでっち上げる真似が出来るとは、私には到底思えない。
だから、今の言葉は全て、事実──。
彼の浮気相手は、私──。
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