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全身から込み上げてくるこの感情は何だろう……。悲しみ?怒り?
「内田さん」
茫然とした頭に、覚野さんの声が微かに響く。
目の前にいるはずなのに、見えない。視界が歪んでいる。
「内田さん」
「……」
手を握られていたことに私は今更ながら気づいた。
「人の心を読むということは、その人の知りたくなかった秘密を知るということなんです。それは……必ず誰かが傷つくということでもある」
「……」
「内田さんの傷を作ったのは僕です。だから、全ての責任は僕にある。内田さん、あなたの深い悲しみ、僕も共有します」
「覚野さんに責任は……」
「あるんですっ!全ては僕のせい。内田さんの傷が癒えるまで、僕は内田さんの手をずっと握ってます」
断固とした強い意志に、歯向かう術はなかった。
それに、覚野さんは言っていた。あなたの深い悲しみ、と。
私にも判然としなかった感情を、覚野さんは読み取った。私の、心の奥底まで読んだのだ。
もう、抗う意味はない。私は、心の全てで悲しんだ。涙が頬を伝った。声を上げて泣いた。
覚野さんはそれら全てを、一緒に受け止めれてくれた。気づいたら、覚野さんの頬にも、涙が流れている。
「いや、私は当事者ですけど……覚野さんまで、泣きます?」
「いやね……内田さんが昔読んだ、心に深く残っていた感動的な小説で泣いてしまいました」
「ちょっとぉー!?」
それはいきすぎだ。人のプライベートをずかずかと。私は乱暴に手を振りほどいた。
「ごめんなさい、いきすぎちゃいましたね」
「……もぅ」
少年のような、愛らしい照れ笑いを浮かべられると、何も言えないじゃないですか。ふと、私は気づいた。自分の心を。
「ありがとうございます覚野さん。何だかもう、スッキリしました。彼とはキッパリ別れます」
「それが一番です。内田さんにはきっと、あなたのことを心から大事にしてくれる人が現れます。なんなら僕が、世界中の男性の心を読んでみましょうか?」
「んー、遠慮しときます」
私が立ち上がると、覚野さんも立ち上がる。
「駅まで送ります」
──心、読みます。覚
その看板を最初に目にした時と違って、今の私は晴れ晴れとしていた。
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