the past 1

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 少し離れた位置のここからでは、どちらが自分の知っている仁志なのかわからない。そう思った矢先、 「さっすが有名私立。お金かかってそうな校舎」  白いニットの方が校舎を見上げて言ったのが聞こえた。 「そりゃかかってるんじゃない? メンテナンス代が」 「そんな古いの?」 「建て増しはしてるけど、いちばん古いところは大正とか明治だよ。確か」 「ふうーん」  同じ声の二人が同じ口調で話すのを、方総は立ち去る理由もないので、ジュースを飲みながら、何となく、聞き続ける。きっと二人は、少し離れたところに人がいることに気付いていない。 「ちょっと入ってみたいな」 「ダメだよ。部外者立ち入り禁止」 「えー。あ、じゃあさ、ちょっとだけ、アキの振りして校舎と寮の中見て回るってのは?」 「もっとダメ」 「なんで?」 「バレたとき怒られるのぼくなんだよ?」 「一緒に怒られてあげるよ」 「そういう問題じゃない」 「じゃあどういう問題?」 「――それで先生に目ぇ付けられて居心地悪くなるのやだもん」 「そんな程度でいづらくなるようなところなら、やめて帰ってくればいい」 「なに言ってんの?」  二人の声のトーンが、ほんの少し低くなった。それに感付いた方総は、膝の上に肘をついた左手に顎をのせ、右手に持ったジュースの缶に視線を落としながら、つい、耳をそばだててしまう。 「男子校での寮生活なんて、なんで父さんと母さんは許したんだろ」 「まだ言ってんの?」 「当然だろ。どれだけぼくが心配してると思ってんの」 「一年間、何事もなく過ごせたよ? なにがそんなに心配なわけ?」 「この容姿に生まれたことでのメリットとデメリット、三つ挙げてみて」 「―――」 「両親の前ではこんな話したくなかったから言わなかったけど、心配じゃないわけないじゃん」 「考えすぎだよ。ほんとに、大丈夫だよ? 最初のキャラ設定が上手くいったからか、いい感じにちやほやされてるだけだもん」 「今までは大丈夫でも、これからどうなるかわかんないじゃん」 「へーきだって! ほんとに!」 「なにかあってからじゃ遅いんだよ?」 「わかってる」 「でももしなにかあった、絶対帰って来るんだよ?」 「うん」 「ぼくに隠し事はできないんだからね?」 「うん」
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