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少し離れた位置のここからでは、どちらが自分の知っている仁志なのかわからない。そう思った矢先、
「さっすが有名私立。お金かかってそうな校舎」
白いニットの方が校舎を見上げて言ったのが聞こえた。
「そりゃかかってるんじゃない? メンテナンス代が」
「そんな古いの?」
「建て増しはしてるけど、いちばん古いところは大正とか明治だよ。確か」
「ふうーん」
同じ声の二人が同じ口調で話すのを、方総は立ち去る理由もないので、ジュースを飲みながら、何となく、聞き続ける。きっと二人は、少し離れたところに人がいることに気付いていない。
「ちょっと入ってみたいな」
「ダメだよ。部外者立ち入り禁止」
「えー。あ、じゃあさ、ちょっとだけ、アキの振りして校舎と寮の中見て回るってのは?」
「もっとダメ」
「なんで?」
「バレたとき怒られるのぼくなんだよ?」
「一緒に怒られてあげるよ」
「そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題?」
「――それで先生に目ぇ付けられて居心地悪くなるのやだもん」
「そんな程度でいづらくなるようなところなら、やめて帰ってくればいい」
「なに言ってんの?」
二人の声のトーンが、ほんの少し低くなった。それに感付いた方総は、膝の上に肘をついた左手に顎をのせ、右手に持ったジュースの缶に視線を落としながら、つい、耳をそばだててしまう。
「男子校での寮生活なんて、なんで父さんと母さんは許したんだろ」
「まだ言ってんの?」
「当然だろ。どれだけぼくが心配してると思ってんの」
「一年間、何事もなく過ごせたよ? なにがそんなに心配なわけ?」
「この容姿に生まれたことでのメリットとデメリット、三つ挙げてみて」
「―――」
「両親の前ではこんな話したくなかったから言わなかったけど、心配じゃないわけないじゃん」
「考えすぎだよ。ほんとに、大丈夫だよ? 最初のキャラ設定が上手くいったからか、いい感じにちやほやされてるだけだもん」
「今までは大丈夫でも、これからどうなるかわかんないじゃん」
「へーきだって! ほんとに!」
「なにかあってからじゃ遅いんだよ?」
「わかってる」
「でももしなにかあった、絶対帰って来るんだよ?」
「うん」
「ぼくに隠し事はできないんだからね?」
「うん」
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