the past 1

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「あーあ。やっぱ離れてるのはヤダな」 「心配し過ぎ」 「心配なだけじゃなくて、単純に淋しいんだって」 「……そのうち慣れるよ」 「アキは慣れたの? ぼくは慣れたくないよ」 「――」 「ああ! もう行かなきゃ」 「え? あ、ほんとだ」 「じゃあ、今年のコールデンウィークは帰ってきなよ」 「うん」 「絶対だよ?」 「うん。帰る」 「じゃあね」 「うん。バイバイ」  声が途切れたと同時に、足を動かす音が聞こえて、方総は顔を上げ、見納めのつもりで、双子のツーショットを目に映した。 (すげぇインパクト)  一卵性双生児を見たのが初めてで、しかもその初めてが素晴らしい美形だったので、結構な衝撃を受けた。もしかしたら、もう二度と見ることはかなわないかもしれない二人そろっての姿だったが、方総の座っている位置からは、すぐに、白いニットの少年が見えなくなり、カーキ色のパーカーを着た少年の横顔だけが残された。  きっと見えなくなるまで見送っているのであろうその顔から、少しずつ笑みが消えていき、徐々に、抑えきれない切なさと淋しさと、もっと別の感情が滲み出てきた。 (―――)  1分あったかなかったかの、ほんの短い間にいくつかの表情を見せる同い年の少年を、方総がじっと見ていると、そこにただ立っているだけで絵になるほどの、まだ幼さが多分に残る美少年がくるりと身体の向きを変え、正門に背を向けた。そして数歩進んだ後、二人の眼が合った。そこに人がいると思っていなかった晶久は、微かに肩を揺らすほどに驚いて足を止め、すぐに表情を引き締めると、 「なに?」  と、問い掛けてくる。方総は、頭に浮かんだ言葉をそのまま相手に伝えるべきではないと判断して、 「別に」  抑揚なく返したが、晶久はそれでは納得しなかった。 「『別に』って顔じゃなかったけど」  問い掛けられた時、自分がどんな表情をしていたかわからない方総は、何と答えようかと束の間、思案する。嘘をついて、煙に巻いてしまうことは難しいことじゃない。しかし、まるで睨みつけてくるくらいのまっすぐさで自分を見つめる相手の眼は、頑なに、それを拒んでいるように思えた。だから正直に言った。 「自分と同じ顔のヤツに恋愛感情持つのって、どんな感じなのかなと思ったんだよ」 「!!」
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