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「あ! 寮で思い出した。俺なんか頼まれてたんだ」
「何かって?」
「なんだったっけな? 悪いけどお前、宮本探して、用事聞いてきてくんない?」
「いいですけど、それ、ほんとに宮本先輩ですか?」
「なんで?」
体育館を目の前にして、二人の足が止まる。
「先輩に何か頼むなら、新寮長の宮本先輩より、寮監の歌川先生かなと思ったんですけど」
どちらにしろ、二人とも寮にいるだろうから、間違っていたとしても大した手間にはならないから構わないのだが。と含ませて、少し自分より背の高い片瀬に眼差しを上げて言うと、方総の目を二、三秒凝視した後、片瀬は声を上げた。
「ああ! そうだ! 歌川先生だ。方総ナイスアシスト!」
「じゃあ、歌川先生のところに行ってきます」
用事をさっさと済ませてしまうために、方総が足の向きを変えかけるが、
「ああ、いい、いい。後でいいんだ」
と、止められた。
「寮生の名簿を取りに来いって言われてたんだよ。別に急がないともな。つか、なんで俺が寮生の名簿を持ってなきゃなんないわけ? 生徒会の管轄じゃないだろ。誰が寮生で誰が自宅通いかなんて、興味もないし」
「興味の問題じゃなくて、一応把握しておけってことでしょ?」
「必要ねーよ」
片瀬の愚痴を聞かされながら体育館へ入っていく方総の頭には、もう、晶久の表情も声も残っていなかった。
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