the past 1

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 翌日、二年に進級しても、二人は同じクラスならなかった。  方総は、忘れてしまえるものではなかったが、あの会話はなかったことにしようと決めていたし、晶久の方も、すすんで話題にしたいようなことではなかっただろうから、一年の時と同様、接点のない二人は、そのまま、言葉を交わすこともなく、月日が流れていった。  方総の目に晶久は、常に淡々としているように映っていた。みんなから構われ、甘やかされて我儘になっていてもおかしくないような環境に身を置きながらも、そうはならず、節度をわきまえて近づいてくる相手には、物腰柔らかく柔和な笑顔で対応し、分け隔てなくみんなと仲良くしている。しかし、その態度を勝手に誤解し、一歩踏み込もうとした者には、容赦なく、目の前で扉を閉めてしまう。それをやられてさらに火が付く生徒もいるが、そのことに煩わされ、機嫌が悪くなってきた晶久に気付いた周りの生徒たちによって、その生徒は彼の前から立ち退かされてしまう。晶久は、あくまでみんなのアイドルであって、誰か一人のものにはならない。させない。  たまに繰り広げられるそんな攻防を、離れたところから傍観している方総もまた、ある意味、アイドルだった。学力トップで運動もできる(体育も成績の内だ)生徒会長補佐。一年の時そこそう目立ったところはなかったが、二年に進級してからは、幼さが抜けはじめ、身長が伸びてくると、その容姿はだんだんと人目を引くようになり、一年生はもちろん、同学年にも、彼に一目置く生徒が増えてきた。ただし方総の場合、容姿や成績の良し悪しもさることながら、その人柄におけるところも大きかった。小学五年の秋に父親を事故で亡くして以来母親と二人暮らしで、自然と、周りの生徒たちよりも大人びた子どもになってしまった。物事を冷静に見て、よほどのことがあっても慌てることなく、もしくは、慌てていることを表に出すことなく、誰からも頼られる存在になっていた。そんな息子を母親は、誇りに思うと同時に、申し訳なさを感じ、心配もしてくれていたが、方総自身は何も問題はないと思っていた。ただ、二つ年下の幼なじみに、 「子どもの時期がない人は、大人にもならないんじゃないかなぁ? きっとカズくんは、永遠に少年だと思うよ」  と言われた時には、返す言葉が見つからなかった。
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