the past 1

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 夏休みが明けて二日目の放課後、予定通り生徒会長になった方総が三階の生徒会室に入り、エアコンの電源を入れる前に、閉め切ってあった部屋の空気を換気しようと窓を開けると、校庭を一人で歩く晶久が目に入った。常にと言っていいほどそばに誰かがいる彼にしては珍しいことだと思って見ていると、 「なに見てんだ?」  副会長に就任した藤堂隆行が部屋に入ってきて窓際までやって来ると、一緒に階下を見下ろした。 「仁志が一人で歩いてる、と思って」 「ほぉー。ついにお前もヤツのビボーの毒牙にやられたか」 「は?」  下を見たままにやけている隆行を横目で見ると、 「え? そうじゃないの?」  本気のトーンで訊かれた。 「違う。つか、おれの中での仁志のイメージって、美少年っていうより頭のいいヤツっていう方が強い」 「へ? なにそれ? なにを根拠に学年主席のお前がそれを言うの?」  その時方総の頭の中には、「最初のキャラ設定が上手くいった」と言っていた晶久の声があったが、それをここで言うつもりはなかった。 「テストの結果がいいだけが頭がいいってことにはならないだろ。そうじゃなくて、人として、頭のいいヤツ」 「ふうーん。シタタカとか、そういうこと?」 「――悪いイメージはないけどな」 「まあ確かに、今まで大きなトラブルを一切回避してきたことを考えれば、そうなのかもな。あー、でも、微妙な噂流れてるし、それも『今まで』になったかもなー」 「どういう意味?」  窓枠に肘をついて、もう晶久のいなくなった校庭を見続けている隆行の言葉が理解できず、方総は隣を見た。 「ん? あれ? 聞いてないのか?」 「何を?」  掌に顎をのせたままこちらを振り向いた隆行に訊かれ、まったく何の話か分からない方総が訊き返すと、隆行は、身体の向きを変えて窓に背を向け、 「それもあって見てたのかと思ってた」  と言ってから、二人しかいない部屋にもかかわらず、少し声を低くして続ける。
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