the present 1

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 私立恵桐学園高等学校 中学校と並べて書かれた門柱を、ちらりと一瞥した菅原方総(すがわらかずさ)は、歩みを止めることなく、その校門の内側へ入っていった。  ここの中学校を卒業してから、一年半近くが経つ。  グレーのブレザーと同色のトラウザーズを身に着け、中学生は明るい青色のネクタイを、高校生は紺色のネクタイを締めている。帰宅部の下校時間を少し過ぎているため、正門付近に生徒はほとんどいない。それでも、まったく誰もいないわけではなく、すれ違う学生みんなが、中高問わず、驚いた表情を浮かべるか、不思議なものを見るような眼で、私服で歩く方総の姿を追いかけている。当の方総は、その視線に気付いているにもかかわらず、まったく気にした様子はなく、さらりと無視して、勝手知ったる校庭を突き進み、校舎の方へと歩いていく。 (寮にいるんだろうけど、先に隆行に会っといた方がいいんだろうな)  在学中、何度か足を踏み入れたことのある高校の校舎へと進み、昇降口ではなく、玄関から中へ入ると、自分を呼び出した藤堂隆行(とうどうたかゆき)に会うため、彼に電話をして居場所を聞こうと、携帯電話を取り出した。  玄関から入ってすぐの壁に凭れて、携帯のアドレス帳を開いていると、 「方総、先輩……?」  久しぶりだが忘れていなかった声が聞こえて顔を上げた。すると、いくつかの好奇の眼差しに交じって、ただただ驚いた表情で自分を見つめる後輩の顔があった。 「ああ」  短く、しかし親しみを込めて、まるで昨日も会っていたかのような声を出した方総に、新城響(しんじょうひびき)は驚きの上に笑みをのせて、 「どうしたんですか?」  と近づいてきた。彼の隣では、見たことのない高校生が方総と響を交互に見て、成り行きを見守る体勢をとっている。 「隆行に呼び出されたんだよ。どこにいるかわかるか?」 「生徒会室です。俺もこれから行くんですけど」  響の答えで携帯が不要になった方総は壁から背中を浮かせると、ふっと微かに声をもらして笑い、 「高校でもやってるのか」  と、響と一緒に歩き出す。 「学校の制度が変わるか、俺が成績落とすかのどっちかじゃないと、やるしかないでしょう」
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