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しかし方総は、その声に臆することなく、
「授業終わって直接来たんだぞ。これ以上早く来られるかよ」
声を上げた友人、藤堂隆行を正面から見据えて言った。
「そっちじゃなくて。俺が最初に電話したの、一週間前だぞ」
中央にある長テーブルの窓際の席を定位置にしている隆行はそこから立ち上がると、ドアの前に立って腕を組み、自分を見ている方総の方へ歩いていく。
「お前の電話が早すぎるんだよ」
夏休みに会って以来一ヶ月ぶりに会う友人は、相変わらず、動じることも慌てることもなく、ここがまるで己のテリトリーかのように佇んでいる。隆行は、何故かそのことにほっとして、それ以上の文句を言うのをやめた。
今入って来た方総を再び外へ連れ出すため、閉められたばかりのドアに手を伸ばした隆行は、自分の定位置に鞄を置いている響を振り返り、
「ああ、新城、そこに置いてある手紙、目ぇ通して大丈夫だったらポスト投函しといて。この間の芸術鑑賞会のゲストへの礼状だから、頼むな」
と、指示を出した。
「昼休みに渡されたリストのチェックと、どっち優先ですか?」
「礼状」
「わかりました」
返事を聞いた隆行がドアを開け廊下に出る間際、方総は軽い溜め息を吐いた響に、
「響、あんまり甘やかすなよ。キリないぞ」
忠告の笑みを向けた。
「大丈夫です。今日は六時までに帰んなきゃならないんで、これ以上引き受けません」
「あ? 何だよそれ。聞いてないぞ」
「今初めて言いましたから」
「もう一個、頼みたいことあるのに」
「先輩送り届けてさっさと帰って来て、自分でやってください」
「かわいくねーなー」
響が本気で今以上の仕事をする気がないのだと判断した隆行は、そう言い残して部屋を出た。方総は、最後にもう一度、響ともう一人の友人と眼を合わせてから隆行に続いた。
扉が閉まり、二人の足音が聞こえなくなると、今まで黙って皆のやり取りを見ていた内の一人、河内創(かわうちはじめ)が口を開いた。
「何者?」
「菅原方総。僕たちの代の中学の生徒会長」
彼に答えたのは、中学の時は会計をしていた現副会長の飯島悠貴(いいじまゆうき)。そしてその答えに、
「ああ! あの人がそうなんだ。どーりで響が饒舌になるわけだ」
と反応したのは川本慶一郎で、
「別に、饒舌になんてなってないだろ」
と、響が反論したが、
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