the present 1

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「新城、方総に懐いてたもんねー」  と悠貴に言われてしまい、その反論は意味をなさなかった。 「で? 何で元恵桐の生徒がいきなり来てんの?」 「んーー。仁志対策じゃない?」  上級生二人と友人一人が手を止めて話をし始めた同じテーブルで、響は隆行に言われた手紙を手に取って読み出した。 「仁志って、仁志晶久(にしあきひさ)?」  誰もが知っている学園随一の美少年、仁志晶久。男子校における眸のオアシス。みんなに守られるべき学園のアイドルだ。 「他に誰がいるの?」 「―――」  わかりきったことをわざわざ訊くなと悠貴に一瞥された創は、一瞬ムッとした後すぐに閃いて、 「あ! じゃあ、あれが、ウチのアイドル様が唯一心を許したってヤツ?」  と訊いた。 「ああ、うん、そう」  愛玩具扱いも疑似恋愛の対象にされることもまっぴらな美少年は、心の壁を高く作って、ある一定の距離から先は絶対に人を受け入れない。それを周りの生徒たちも理解していて、無理に彼の敷地内には入っていかない。それが、創がこの高校に入学して知った、校則には載っていない不文律だった。ところがそれを、二年に進級してから破ろうとする輩が出現し、アイドル様は日に日に機嫌が悪くなってきている。そんな中、誰彼ともなく、 「あいつがいてくれたら解決するのになー」  と言っているのを耳にしていた。しかし仁志にも「あいつ」にもたいして興味のなかった創は、その話を詳しく聞こうという発想がなく、軽く流していた。だが実物を見てみると、なかなか興味をそそられる存在だった。 「へぇー。あのルックスで頭良くて、泰然自若のあのオーラ。やっぱどっかのご子息なわけ?」  資産家や権力者の息子が多いこの学校に通ってもうすぐ一年半。最初の頃こそいちいち驚いていたが、いい加減慣れてきた。 「男の子はみんなどこかしらのご子息だよ」  そういう眼で見られるのが嫌でこの学校に入ったのに、いつまでたっても付きまとうその言葉に、悠貴は険を含んだ声で答えて、手元のプリントに視線を落とした。 「そうじゃなくて、どこかの御曹司かって訊いてんの」  悠貴は、動かし始めていた手を一旦止めて、大仰に溜め息を一つ吐くと、淡々と一気に話し切る。
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