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「ついに今日、早退した」
高校の生徒会室を出て寮に向かう途中、たまにすれ違う生徒たちの視線をまるっきり無視して歩きつつ、隆行が切り出した。
「自分から?」
「いや。あまりにもの顔色の悪さに周りが見かねて帰らせた」
(だろうな)
「二時間目、始まる前にな」
言外に、「これでも来るのが遅くなかったと言えるのか?」と含ませてみたが、方総は何の反応も示さなかった。
「理由は、電話でも話した通り、わかりきってるんだ。自分のことしか考えられない馬鹿が、空気読まずに突っ走って不文律を犯しやがかった。まあそれでも、機嫌が悪くなってるだけならほっといていいと思ったんだ。現に放っておいたしな。みんなだって、それで遊んでるフシあるし。構いたくて仕方のない連中が、理由見つけて楽しんでるんだ、好きにすればいい。けどさ、あいつ、必要以上に構われんのとか、特別扱いされんのとか、嫌がるだろ。それが周りもわかってるからちょうどいい距離の取りかた測って、気ぃ遣いすぎて、またその気遣いが鬱陶しくて、余計に機嫌悪くなってきて、体調も悪そうで、さらに言えば、教師陣もあいつには過敏になるとこあるから、それがまた生徒に伝染して、すげぇ悪循環。で、今日はとうとう早退」
学園の敷地内にある寮へは、あっという間に辿り着く。大正時代に建てられたという石造りのその建物の門扉を開け、隆行が先に中へ入る。方総は、友人の後に続きながら、一年半前まで生活していた空間に、そこはかとない懐かしさを覚えて、一度、上下左右を見回し、建物の全体像と小さな庭に眼をやってから、足をその建物の中に踏み入れた。
「あれー? 隆行ー? なにしてんの? ――って、方総じゃん!」
土足のまま中に入って廊下を歩いていると、前方から歩いてきた生徒が二人を見つけた。隆行にとっては同級生で、方総にとっては元クラスメートの一人だった。
「今このタイミングで俺がこいつ連れてここにいる理由なんて、ひとつしかないだろ」
隆行が顎で方総を指して言うと、
「だな。仁志の部屋なら207号室」
と、二人の前で足を止めて教えてくれた。そして自分より背の高い方総を見上げて、
「せっかく久しぶり会えたんだから話したいのになー」
と口を尖らせてから、
「ま、しょうがないよな。健闘を祈る」
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