第10章・それからの日々

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今年ほど夏の終わりが待ち遠しかった年はない。 子供の頃や学生時代は夏休みの終わりが残念だったし、社会人になってからも盆休みのある夏は貴重だった。 特に去年や一昨年は樹とゆっくり過ごせる夏が愛しくて、その反動もあり秋はどこか憂鬱だった。 八月最後の土曜日、仕事から帰宅した私は部屋の窓を開けて、カーテン越しに夜風を浴びていた。 今日は昨日までと違って、かなり涼しかった。 クーラーをつけなくても、夜風で充分に心地良い。 約束の夜十時ジャストに携帯が鳴り、私は通話ボタンを押して「はい」と声を出す。 「雪穂?」 私を確認する樹の声が耳に届いた。
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