プロローグ

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 僕が派遣された前線の都市は、国土を南北に縦断する長大な河川と、それらを跨ぐ五つの橋によって結ばれている。この肥沃な平野と油田を有する砂漠のオアシスは、予てから要衝であると同時に枢要な拠点で、ゆえに開戦の当初から軍によって制圧下に置かれ、今日まで統治が為されていた。  河を背に半円の壁に覆われた基地は、当時の空挺師団がそのままに居座って治安の維持にあたっていて、雄々しく叫ぶ鷹の隊章ーー、半世紀の歴史を紡ぐ生え抜きの部隊の、城壁からクチバシの様に飛び出たオフィスに僕は通された。時間はまだ昼過ぎだが、もう傾いた陽がブラインド越しに陰を作っている。  待つ事数分。ノックをして入ってきた一等兵は僕よりも若い、ただ在留期間だけが勝る新米の兵士で、彼は哨戒を兼ねた周囲の案内を申し出た。  どのみち明日までには地図を頭に叩き込んでおく必要があった僕は、二つ返事で応じ彼の後を付いて行く。尉官としての僕の任務は、市内で群発するテロの防止と、発生した場合のその制圧だったからだ。  今や独裁者は倒れたにも関わらず、旧軍を取り込んだ武装勢力の反攻は各地で起きていて、言わば僕らがテロリストと呼ぶのは、こちら側の正義にとって都合が悪く、それでいて軍服を着ていない連中の全てだった。    或いは怯えて撃った弾丸の跳弾が、他人や燃料庫に当たって大火事になっただけなのかも知れない。あの日、テロを前に恐慌した僕の国の民衆は、正義と悪の白黒に容易く乗せられ武器を取った。それから五年。本国を襲ったグループとこの国の関係は不鮮明なままで、宣戦布告の動機となった破壊兵器も見つかってはいない。  一等兵の案内でゲートの入り口に連れられた僕は、改めて感じる基地の刑務所然とした外貌に、思わず苦笑いを溢す。もはや民間人との区別がつかない武装勢力への、その対策として設えられたのがこの城塞の、三層の防壁だった。
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