プロローグ

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 ーーまるで囚人だな。国を守るのでは無く、壁に守られた。  隊章の叫ぶ鷹は、飛び立てない空の、閉じ込められた籠に何を思うだろう。  内心でしか語らない言葉を胸に、僕は「ハハハ」と彼の下品なジョークに付き合いながら扉をくぐる。  基地が有する防壁は三つ。最外壁から二層目までが緩衝エリアで、ここでは一部だが孤児たちも預かっている。というのも開戦後、戦闘で親を失った子どもたちが、武装勢力に引き取られテロリストの一員になるケースが頻発した為で、初期段階の隔離によりテロの連鎖を断つ目的が第一にあった。  そして二層目からは士官の宿舎や生活エリア、さらに最奥が司令部を含む軍事施設と、徐々にセキュリティのレベルをあげる事で、有事の際の損害を低減する仕組みが取られていた。 「ガキどもですよ。荷物がある時は近づかない方が良い。何か盗られるかも知れませんから」  一等兵は僕にそう忠告したが、基地として孤児院、いや難民キャンプと言うべきなのかーー、つい僕は物珍しく、あちこちと見回しながら歩いていた。  皆身なりは綺麗とは言いがたいが、しかし異臭が漂う程では無い。砂漠に浮かぶ島と形容されるこの都市だからこそ出来るのだろう。食料も水源も潤沢にあり、兵士たちの分を賄っても尚、周囲に供給する余裕のあるオアシスだからこそ。  やがて二層ゲートの前に至ると、その隣でフードを深く被った少女と目が合う。褐色の肌に白い髪を乱雑にボブカットで揃えた少女は、こっそりこっちを見上げたまま、視線の交錯に気がつくと会釈して隠れる様に俯いてしまった。すると次には、今まで手にしていた恐らくはコピー品のDVDを、抱えたまま駆けて行く。  「トードリリーです」  一等兵が僕に耳打ちする。 「トードリリー?」  そう呟いた僕と、それが彼女、トードリリーと呼ばれた少女の出逢いだった。
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