神は義なる裁き主

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その影を偲ばせるものは僅かしかなく、それが今は有り難かった。 朽ちかけた長椅子が左右に三脚ずつ陣取っている。 成人男子が座ると、六人が精一杯といったところだろう。 床板を軋ませながら真ん中の右側に深く腰掛けた。 俯いて吐息する。 吐き出された息は、空気の存在を誇示するかのように白く漂っては消えていく。 視線をあげた。 周囲にも張り巡らされたステンドグラスは、差し込む陽を鮮やかに輝かせてキラキラ揺れていた。 厳粛、荘厳、静寂、そして張り詰めた空間…その存在が放つ神々しさは、この世に神が在ることを心に刻む。 見つめるのはキリストの背後に見え隠れする父なる神──── 「神よ…この私に裁きを…」 哀しんでいるのか、苦しんでいるのか。 男の瞳はその思いに揺れている。 巻いていたマフラーを外し、傍らに置いた。 「神よ、あなたは終始ご覧になっていたはず。  もしお慈悲がおありなら、私に裁きを…お与え下さい」 低く呟くと、静かに両手を組んで瞑目する。 懺悔は懐中で行われた。 男を包む時間は、片時も狂うことはなく刻まれ続け、遅すぎた後悔を増幅し、容赦なく落胆させていく。 裁きを求める男。 望むものは何であろう。 穏やかな冬の日差しは、男をただ包み込んでいるだけだった。 神はその存在で何を裁くのか。 神だけが裁ける人間は、その思いの何と深いことか。 教会に広がる静けさは、過ぎていく時間をも忘れさせていた。
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