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目を開けると、そこは黒に塗れた空間だった。
日の光も、月も、星も、雲すらない。バケツいっぱいにペンキをひっくり返したかのようなその場所は、とてもじゃないが素敵な場所とは言えない。
「ここは一体……」
辺りを見回すより早く、1軒の小さな家が目に入った。いや、正確には家ではない。看板がかけられているから、何かの店なのだろう。ズレたメガネをかけ直し、看板に目を向ける。その文字は《黎明屋》――聞いた事も見た事も無い店名だ。
他に何か無いだろうかと辺りを見渡していると、キィという音と共に店の扉が開いた。
「あれ?お客さん来てるー!」
その扉から出て来た人物は、僕よりもずっと小さな……10歳あるかないかくらいの少女だった。淡い茶髪を編み込みしたセミロングの大人しそうな髪型。それとは逆に、活発さをイメージさせるピンクのパーカーと赤いキュロットが印象的だ。
「お客さん? 君は一体誰なんだ」
尋ねる僕に、少女はにっと笑って答えた。
「あたし?あたしはサチカ。ここの看板娘みたいなもんかなぁ」
「か、看板娘? こんな小さな子が店の手伝い? 君の店の店主は何を考えているんだ」
頭がクラクラする。こういった非現実的でいて不可思議な現象は僕には向いていない。
「頭が堅いお兄さんだなぁ。ま、ま、とりあえず入りなよ。ここに来たって事は、お兄さんはうちの商品を買う権利があるって事だからね」
「商品? 何を……わっ!?」
ぐいっと腕を引っ張られ、強引に店の中へと連行される。この少女、見た目よりかなり力がある。化物か! と思わず突っ込まずにはいられなかった。
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