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店の中に入ると、今まで嗅いだことの無い匂いが鼻についた。香水か、はたまたアロマ系のモノなのか。店内の匂いなのかもしれないが、僕には分からなかった。
「旗利ー! お客さんだよー!!」
目の前の少女は僕の腕を掴んだまま、カウンターの奥へと声を響かせる。だが反応は無い。「旗利! 旗利ったら!」と煩く叫ぶ彼女の金切り声を聞かぬように片手で耳を塞ぎながら、店内を見渡してみた。あまり効果はないが……。
雑貨屋、またはアンティークの店とでも言えばいいのだろうか。見覚えのあるような物から恐らく異国の物まで大小様々な物品が置かれている。中には鍵穴のついた食器棚のような棚の中に厳重に保管されている物まである。
(店だとこの子は言っていたが、本当に店なんだろうか……この量、物置に見えなくもないしな)
一向に現れない【旗利】という人物の存在すら怪しく思いながら、僕はふと自分の胸元に目をやった。首には見覚えの無い、ネックレスと言えばいいのか分からない物がぶら下がっていた。銀色に鈍く輝くそれは手にはめれば相手に痛手を負わせる事が出来そうな形をしていた。なんという名前か忘れたが、その前に何故こんな物をつけているのだろうか。
紺のスーツには不釣り合いなそれを眺めていると、ふと足音が聞こえた。前を向くとそこには、眠そうな顔の男性が立っていた。
「やぁ、サチカ。お客さんもお待たせ。《黎明屋》の店主、旗利です」
ふにゃり、という擬音が似合いそうな顔で彼――旗利と名乗った男性は笑う。その笑顔から僅かに除く瞳はどこか不気味さを宿していた。びくり、と身体が震えた気がしたが恐らく気のせいだ。
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