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最初は大人しいという印象しかない、ただのクラスメイトだった。けれどスポットライトを浴びて堂々と演技をする姿を初めて見た時、それは普段の雰囲気との違いも相まってやたらと鮮明に僕の中に残ったのだ。
「それに、いつも遅くまで一生懸命練習してるし……そういうの、すごいなって思ってたんだ」
文化祭の後、気付いたら目で追うようになっていた彼女はいつも一つのことに真剣に打ち込んでいて――その姿はまぶしさとなって、日に日に僕の心に積もっていったのだった。
「……ありがとう」
彼女はそう言うと柔らかく微笑む。ほんのりと頬を染めるその姿は夏の宵に溶け込んで、可憐な花を思わせた。
僕は僕で随分大胆な事を言ってしまったと照れを隠せないでいたが、彼女はそんな僕の表情一瞬一瞬をとらえるようにゆっくりと瞬きをした後、突然ぱっと明るい声を出した。
「ねえ、せっかくだから何か食べようよ」
「いいよ。何が食べたい?」
「えっと、じゃあかき氷がいいな」
それから僕たちは花火が始まるまでの間、屋台をまわって歩くことにした。意外にも僕等は趣味が合うようで、僕があの屋台いいなと思えば、次の瞬間には彼女が振り向いてあれが食べたいと同じ屋台を指さす。彼女との共通点を見つけるたび、僕の中に嬉しさがこみ上げた。
いつも横顔ばかり見つめてきた彼女とこうして隣を歩いている。ほとんど話したことすらないのに、僕たちはまるで何年もそうしてきたように自然に話して笑いあっていた。別々の色をしたお互いの空気が徐々に溶け合って居心地のいい雰囲気を作っている。それは僕にとって嬉しい発見だった。
とはいえ、やはりまだ緊張は解けないようで僕はラムネを開ければ盛大に吹きこぼしたり、何か話しかければ声が裏返ったりと散々だった。そんな僕の失敗一つ一つに彼女は声を立てて笑っては、何度も目尻をぬぐっていた。
「やだぁ、宮田君、舌が緑色になってる」
そう言って彼女はまた笑い始める。さっき食べたかき氷のせいだろう。僕ははにかみながら、僕のことでここまで楽しそうにしてくれる彼女をどこか新鮮な気持ちで見つめていた。そうしてひとしきり笑い終えた彼女ははあ、と息をつくと、涙をたたえた柔い色の瞳でじっと僕を見つめ返すのだった。
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