人魚姫の刃

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「わ、長谷部さん見て。風鈴売ってるよ」  チリンチリン、と透き通った音に目をやると、そこにはいくつもの小さな風鈴を吊るした屋台があった。 「珍しいね」  そう言って隣を見れば、彼女は瞬きもせずにそちらに目を奪われている。 「欲しい?」  控えめにそう尋ねると、彼女は目線をそのままにこくんと頷いた。それから一目散に屋台の方へ駆けていく。その思いがけない無邪気な一面に、僕は思わず微笑んで彼女の後を追った。 「どれがいい?」  赤い提灯に照らされて、様々な模様の風鈴はどれも目移りがするほど綺麗だったが、彼女は迷うことなくそのうちの一つを手に取って僕の方へ掲げた。 「これにする」  それは繊細な波模様が描かれたものだった。硝子の球は青のグラデーションになっていて、光に透かせばまるで海の底から空を仰いでいるようだ。  財布を取り出そうとする彼女を制し、僕は店のおじさんにお金を渡す。 「それじゃ……行こうか」  照れくささに背を向けて歩きだすと、彼女は風鈴を大切そうに抱えたまま慌てて駆け寄ってきた。 「宮田君、悪いよ」 「いいよこのくらい。せっかくだからさ、おごらせて」  そう言ってから僕はすぐに、形に残る物は重かったかもしれないと思い直した。それもこんな、恋人でも無い男から買って貰った物なんて。  けれど手元の風鈴に目を落とした彼女は、小さく微笑むとありがとう、と呟いた。 「……懐かしいな」 「え?」 「ううん、何でもない。私、絶対大切にするね――今日の思い出に」  そう言って顔を上げた彼女は嬉しそうに笑っているのに、どこか寂しげに見えるのは僕の気のせいだろうか。
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