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世界全体から見て北部に存在する国家・ブジョー共和国は冬が長い。それは学生たちが多くひしめき学生生活と青春を謳歌する学術都市においても例外ではなかった。
カッツ州の政令指定都市にして共和国有数の学術都市・アティス。年が明け雪がますます降り積もる中、黒い外套を羽織り己の肩を抱き寄せる二人の男が、天地共に銀色に染まった道を歩いていた。
「やっと今期の授業が全部終わったな。論述試験なんて指が痛くなって叶わないぜ…俺の美しい白魚のような指にペンダコでも出来たらどうしてくれるんだ」
「仮にも騎士の端くれが指にタコやマメの一つもないっていうのはどうかと思うけど?」
茶味がかった金髪の前髪を整髪料でアップし、けだるそうに文句を垂れる上背の高い男と、それを宥める黒髪で枝毛一つない、どこか優等生の雰囲気を醸しているやや小柄な青年。二人の肩と頭には仲良く新雪が積もっていた。
黒髪の青年の名はルーク。金髪の青年の名はルネス。二人はアティスでも有名な伝統ある騎士学校・クートリル騎士学校の生徒である。文武両道を掲げ、開校数百年の中で数多の有名な騎士を輩出してきた共和国全体から見ても名高い学校で、その学校に通う者は文武共に優れた優等生であるというのが世間の認識であった。
「それ以外にもクッソ長いレポートとか書いて肩も凝ってるんだ。さっさと寄宿に戻って暖に当たりながら、休暇中の予定でもゆっくり考えたいもんだぜ。他の連中もいるだろうから、ルークも来いよ談話室」
「何言ってんの、ルネス」
しかし、その世間のイメージを易々と打ち崩すような発言を繰り返すルネスにルークは呆れた声で制止をかけた。
「僕達来年は最高学年なんだよ。つまり今回の春休みはあってないような物…。そんな悠長にしてる暇なんてないでしょ。現に二日後は学校で集会があるじゃないか」
「こんな雪まみれでクソ寒い中、どこが春だよって感じだけどな」
「真面目に聞いて」
ぴしゃりとルークが言い放つと、ルネスはへいへいと呟きながら頭の雪を払った。
「わかってるよ、優等生クン。わかってなきゃ、こうもふざけてなんてられねーっての」
「ルネスがふざけてるのはいつもの事だよね」
「お前はお前で水を差すなよ」
そしてルークとルネスは偶然にも同じタイミングで、雪を際限なく吐き出す曇天を見上げて口を開いた。
「『就職活動』…か…」
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