僕達の就活(せんそう)

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僕達の就活(せんそう)

国立クートリル騎士学校 校訓 一.騎士の名に恥じぬ紳士たれ 一.騎士の名に恥じぬよう文武を修めよ 一.騎士道を育み質実剛健たる人となれ 一.騎士は弱者と国を守る盾と心得よ 一.騎士学校の名を未来永劫世界へ轟かせよ この五つの校訓は「騎士学校不滅の掟」と呼ばれ、創立数百年に渡り見習い騎士達の心と体を鍛え上げる道標となってきた。 騎士の誇り高さ、世間への役割、責任。それらの明確な目標は騎士達を駆り立て、今日に至るまで数多の有名な騎士を輩出してきた。 しかし、騎士学校不滅の掟には、最高学年になるまで秘匿されている―正確には、教師陣が声を大にして言わない―第六訓というものが存在していた。それは、次のようになっている。 一.騎士学校において生徒諸君に求めるは武勲に非ず。良き騎士団に入り民を守る事なり。 「今年も来ましたな、この時期が。校長」 「然り。儂としては若人が未来へ羽ばたき、本校の名が世界へ轟く日が来た事を喜ばしく思うわ」 窓から差し込む逆行の中、痩身の老人と固太りの老人がしわがれ声で話をしている。暖炉の火は煌々と燃え盛り、窓の外の小雪が舞う寒気など意に介さぬとばかりに部屋を暖めていた。 「しかし、悲しい事に昨今は全員揃って進路が決まるという訳ではありません。その対策はいかがなさいましょうか」 「放っておけ」 きらり、と暖炉の炎が反射して、固太りの老人の黄色い歯が一瞬鈍く輝いた。 「そのような雑魚は所詮ここでなくとも脱落していた人間の屑。放っておいてもいずれ消える。その辺りのケアは任せるぞ、学部長」 「…は」 銀雪の降りしきるこの町で、これから見習い騎士たちの将来という運命をかけた熾烈にて過酷、残酷な戦争が始まろうとしていた。その恐怖は未だ、静寂を生む雪のせいか、まだ誰も知る由がなかった。
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