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「吉田の責ではありませんが……」
「そうかしら? ご自分の奥方を管理できなかったのは、部長さんの落ち度じゃなくて? 警察上層部の奥様が、出張ホストで男を買い漁ってたなんて、ハレンチよねぇ?」
マヤがおもしろそうに微笑む。穂積が苦い顔をし、大輔は目を丸くした。
「その出張ホストをやってたのは……あんたの『女』の組の下部組織じゃないですか」
穂積が憎々しげに言う。こんなに劣勢の穂積は初めて見た。
「しかも客のスキャンダルをネタに強請るなんて……景成会も随分、せこい真似をするようになったんですね」
「その出張ホストは、景成会の直属の店じゃないわ。下の下……の小さな組がやってたのよ。このご時勢、どこの組も上納金が厳しいから、上客が警察幹部の奥様と知ってつい強請っちゃった、んじゃない?」
それにしても、とマヤが妖艶に微笑む。
「あなたのイイ人、でもある吉田部長のスキャンダルは、穂積さんにも痛手だったでしょう? 警察内部の、数少ないあなたの味方が失脚すれば、あなたは益々警察で孤立しちゃうものね。吉田部長の義理のお父様、つまり奥様のお父上は、警察OBの代議士でしょう? 娘婿の失態を許すわけないわよねぇ」
マヤは、ただの風俗店店長ではないと、大輔も知っていた。あの普通でない警察官の晃司が、手を焼くほどだからだ。しかし、今日ほどマヤを恐ろしく感じたことはない。北荒間だけでなく、県警の裏事情にまで通じているとは――。
(……イイ人?)
警察幹部のスキャンダルに紛れ、マヤはもう一つとんでもないことを言った。
隣の穂積を窺う。穂積は冷たい無表情で、マヤを見つめていた。
「どこの誰が主導したかなんて、どうでもいいんです。景成会の下っ端がやったことには違いない。だから、上が片付けろと言ってるんです。もしこの件を放っておくなら……北荒間にある景成会の店を、何店か営業停止にさせます」
「きれいな顔して、脅すわけ? いいけど、北荒間の景成会の店はどこも、そちらの生安課からちゃんと許可を取ってるわよ」
ねぇ大ちゃん? と微笑みかけられても、大輔は無言でウンウンと頷くしかなかった。
(と、とんでもないとこに引っ張りだされてしまった……)
こんな事態は、新人の大輔には厳しすぎる。
晃司に――泣きつきたいぐらいだった。
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