DD!1.5

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 店長によれば、案内所の看板が壊されたりしているのだから、器物破損事件として刑事課に相談できる事案だったが、北荒間が長く、荒間署の事情をよく知る店長の言うとおり、それぐらいの事件を刑事課がまともに取り合うとも思えなかった。 「酔っ払いのイタズラか、どっかの店の奴の嫌がらせじゃねぇの? 北荒間の全部の店が、あんたらの組合に入ってるわけじゃねぇんだし」  乱暴な晃司の言い分に、大輔も内心で頷いた。北荒間には数多の飲食店、風俗店がある。当然競争はあるだろうし、半分カタギではない世界だから、競争が行きすぎれば警察沙汰にもなる。 「そりゃあ、うちの組合員は戦後すぐから北荒間にあったような古参の店ばかりで、新参の店とは付き合いが悪かったりもしますけど……」 「『景成会』の息がかかった店と、その他ってことだろ? それこそ新しい店はオーナーが何者かもわかんねぇんだから、景成会に恨み持ってる店の仕業じゃねぇの?」  景成会――S県で最も大きい指定暴力団だ。長年、北荒間で荒稼ぎしてきたが、近年の暴力団を取り巻く環境の変化で、最近では表立って幅を利かせることはなくなった。今年の春に荒間署に配属された大輔が、梅雨時になっても北荒間で景成会の構成員と出くわしたことがないほどだ。 「それならなおさら、『兄さん』たちに頼れないのはわかるでしょう? 今時、風俗店にヤクザのケツモチがついてるなんて知れたら、一般のお客さん来なくなっちゃいますよ。それに……兄さんたちに頼れていれば、最初からこちらに来ませんって」  最後の方で、店長は恨みがましそうな視線を晃司に向けた。 「またそれだ! 北荒間でトラブルがあるとすぐ、警察がヤクザの取締りを厳しくしたからだって言うんだよなぁ~。ヤクザ取り締まって仕事が増えたのは、こっちもだっつうの!」 「お、小野寺さん!」  思わず大輔が晃司の暴言を止める。今のは、警察官としてあるまじき発言だ。  十も年下の後輩に叱られた晃司は、子供のように口を尖らせ、フンと横を向いて黙り込んだ。  先の発言も、この態度にも呆れるしかないが、北荒間に限っては、暴力団――景成会を締め出した結果、キャストの女性たちに性病検査も受けさせない無謀な経営の店や、得体の知れない組織が経営するボッタクリのような店が増えてしまったのも、事実だった。そしてそれは、荒間署生活安全課の仕事を増やしてもいた。
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