DD!1.5

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 もう帰れよ! と、馴染みの店長を怒鳴りつける晃司を、大輔はジッと見つめた。 (……先週、だと?)  晃司は、普通の警察官ではない。普通の警察官――真っ当な警察官は、管轄内にある風俗店で遊んだりしない。ましてや彼は、風俗店を監督する生活安全課の警察官だ。生活安全課はその職務内容から、度々汚職が問題になる部署で、上からも管轄内で遊ぶなときつく指示されているのだ。  それなのに晃司は、北荒間で遊びまくっている。常連の店がいくつもあるほど。  しかしそれも、最近は治まったと聞いていたのに――。 「だ、大輔?」  晃司が気まずそうに大輔を覗く。  大輔は、自分が彼を責める資格があるのかわからず――いら立った。 「小野寺さん、原係長に怒られたばかりですよね? いい加減、北荒間で遊ぶのはやめろって。……ですから、もちろん係長に報告します」 「だ、大輔~!」 「あ、じゃあ私はこれで……。お陰さまで、店が忙しいんで」  ヘルス店店長が、気まずい空気を察してそそくさと第三会議室を出て行く。  扉が閉まると、第三会議室に気まずい空気が充満する。大輔は晃司と口を利きたくなくて、店長に続いた。晃司が慌てて大輔を追う。 「大輔!」  大輔は、責めなかった。晃司が風俗店で、女性から性的なサービスを受けたことを。  警察官として許されない、とだけ責めた。  他の理由で晃司を責めることは――躊躇って、避けた。  急いで第三会議室を出ようと、扉に手をかけた。 「大輔! 待てって!」  バン! 晃司の手が大輔の行く手を塞いだ。 「今のは……嬢に泣きつかれたんだよ! 今月金欠だから、指名入れてくれって。どうしてもって……」 「泣きつかれるほど親しい女の子、てことですか」  ドアを塞ぐ晃司を睨む。 「いや、まぁ……都合のいい客だと思われてるだけだって」 「そりゃあ都合がいいですよね? 四十五分も延長してくれるんだから?」 「大輔~」  ごめん! と晃司は顔の前で両手を合わせた。  大輔は晃司から目を逸らした。わからなくて――。  晃司の気持ちと、自分の気持ちが。  大輔は一度だけ、晃司に抱かれた。  あの時、大輔は晃司を愛しく思った。晃司も同じ気持ちだと――感じた。  五センチほど背の高い晃司を、見つめる。  晃司の目は困っていた。その目に映る自分もきっと、困っているのだろうと大輔は思った。
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