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「なぁ大輔、お前……なんで怒ってるんだ?」
訊かれたくなかった。大輔は俯いた。
「言い訳になんねぇけど……お前につれなくされて、寂しかったんだよ。それでつい馴染みの嬢に誘われてフラッと……。大輔、お前がイヤだっていうなら、もうどこの店にも行かない。でもお前は……なんで俺に触らせてくれないんだ?」
晃司の手が、大輔の右腕に触れた。それはいつもの遠慮のないセクハラと比べたら、ずっと優しかった。
そっと晃司を見上げる。
(こんな風に触るぐらいなら……)
セクハラで尻を揉まれる方がいい。そうしたら、思い切り怒ってぶん殴ってやればいいからだ。
あれから何度も、晃司に誘われている。二人が初めて結ばれた、生安課御用達のラブホテルMに呼び出されたこともある。
けれど大輔は、応えられなかった。晃司に惹かれているのは間違いないのだが――。
大輔は過去のトラウマから、二十五歳になるまで己の欲望に向き合ってこなかった。そして欲望と表裏一体である恋愛からも逃げてきたから、自身でこの現状を把握できないのだ。
晃司に惹かれるのが欲望からなのか、そうじゃないのか、大輔にはわからない。
だからまだ、もう一度、晃司に身を委ねることは抵抗があった。
(だって晃司さん……やっぱり俺じゃなくてもよかったんだ)
大輔で欲望を果たせなければ、風俗嬢に満たしてもらう。それができるならば、晃司こそなぜ自分に執着するのか。
わかりそうで、大輔にはわからなかった。
大輔に恋愛は、あと二年ほど早いのかもしれない――。
「……くそっ、そんな目で見んなよ」
焦れたように晃司が言い、いきなり抱きしめられた。
「こ、晃司さん?!」
そのままドアに押しつけられ、顔が近づけられる。
「本気でイヤなら……殴って逃げろ」
強引にキスされた。イヤなら殴れと言われたが、両手は晃司に掴まれドアに押しつけられてしまって、できっこなかった。
そもそも大輔の手に、力が入らない。
「んっ、い、や……っむ」
キスから逃れようと、わずかばかりの抵抗をする。しかし、それは形だけだった。
晃司のキスは――熱い。
力強くて荒っぽくて怖いほどなのに――逃げられない。
勤務中で署内にいることも忘れ、大輔は久しぶりの晃司のキスに溺れた。頭が蕩け、バカになる――。
そして、我に返る。
(こ、これがダメなんだ……!)
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