どこへ行く?

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どこへ行く?

 普段はカードを使っているので、直接切符を買うようなことは滅多にない。でも、この前たまたま券売機近くに寄った時、見慣れぬボタンがあることに気がついた。  場所は呼び出しボタンの隣。形は、他の発券ボタンより少し小さかった気がする。  その時はすぐに電話が入り、詳しく確かめることもなかった。でも今日は時間がある。だからあのボタンが何であるかを確かめてみよう。  この前チラと見た時と同じ位置と大きさ。気のせいではなく確かにあった。でも、これは本当に発券ボタンなのかと疑う部分が一つ。  値段が書かれていないのだ。  何か、緊急用のボタンなのだろうか。でもそういうのは駅員の呼び出しボタンで間に合ってるだろうし…。  とりあえず、何か変化があるかもと百円玉を一枚入れてみる。途端、ボタンのランプが灯った、  金に反応するということは、やはり発券用のボタンなのか。しかも、百円で押せるって…。  しばらくためらったが、百円でボタンの正体が判るなら惜しくはない。そう思い、俺はボタンを押した。  切符が出て来る。早速取って確かめたがそこには何も書かれていない。  無地の切符。でも、たいてい裏側は焦げ茶なのに赤黒い色なのが気になった。  結局、何だろう、これ。  悩んでいても答えが出る筈もない。だったらすべきことは一つ。駅員に聞いてみよう。  ちょうど改札口に駅員がいたので、俺は切符を差し出した。『これは何の切符ですか』と、切り出すより先に駅員が切符に判子を押す。 「どうぞ」  反射で返された切符を受け取ると、足が勝手に動き出した。  何がどうなっているのか理解できないのに、身体は勝手に、何本もあるホームの一番端に向かって行く。  随分離れた端っこのホームを目指して、エレベーターのない階段を足が勝手に降りて行く。  確か、ここの駅のホームは十二番線までだった筈だが、目の前には十三の数字が見える。そこに、今まで見たこともない毒々しい紫色の列車が停まっていた。  窓は曇りガラスらしく、中が見えない。ただ、俺が側に寄るなり開いたドアの向うの薄暗さが、どうしようもなく背筋を寒くした。  この列車に乗っちゃいけない。そう思うのに、手が、握ったままの切符を離さない。足が勝手に中へと進む。  知らないホーム。謎の列車。行く宛の書かれていない切符。  …俺はいったいどこに行く…? どこに行く? …完
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