そして、旅に出る

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 京香は鬱屈とした思いと共に、短い人生を省みた。  容姿という一点において、自分は周囲の人間よりも優れている。彼女がそれを自覚し始めたのは、中学入学後である。身体の成長とともに、おおよそ見た目の美醜が決まってくるこの時期において、京香は良い意味で突出した存在であった。  すらりとした目鼻だちはもとより、色気すら感じさせる透明感のある肌や均整のとれた四肢に至るまで、おおよそ十五歳の少女のそれとは思えないほどだった。  普通、学校きっての美貌を備えた女生徒には、学年を問わず取り巻きの男が群がるものであるが、彼女の秀麗さはある種の静謐さを備えており、周辺に特有の近寄り難さを発散していた。それは、高価な美術品を眼前にすると触れることすらはばかられる、あの感覚に似ている。  半端な美人が持っている高慢さは彼女にはない。あくまで客観的に自己分析した結果、自分の容姿は周囲よりも優れていることが明らかだからだ。  美しさを高い次元で維持していくのは容易ではなかった。常に人から見られているということを意識し、ひたすらストイックに、自らを美人たらしめるうえでの努力を彼女は惜しまなかった。
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