そして、旅に出る

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高校入学後もそれは続いた。この頃になると、身体の成熟具合は最盛期を迎え、もはや眠れる獅子すらも目を覚ますほどの美貌と評されるほどになっていった。彼女はより一層の節制に努めた。  過度な拒食は美容の敵になり得るため、運動も欠かさなかった。過酷なメニューも美貌を維持するためと考えれば苦にならなかったのだ。  崩壊の序章はゆるりと訪れた。  三年生に進級して直後に断行された進路調査。進学と就職に二分された用紙に彼女は一筆も入れられなかった。モラトリアム特有の迷いかと言われれば、そうではない。本当に一筆も書き込めなかったのだ。  つまり、京香には目標がなかったのである。  周囲の友人は、自らの能力と目標との間の開きに調整を掛け、大まかな進路を決めていた。彼女にはそれがない。彼女が貴重な青春時代に考えていたことは、自己の容姿の保全。ただこの一点のみであったからだ。  結局、京香は学園の美少女以上の何者でもなかった。それが先の将来に繋がることはない。せいぜい、数年後の同窓会での話のタネになる程度である。自らの唯一の強みを活かす術を彼女は考慮していなかったのだ。
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