異世界に行ってきます。逝ってらっしゃい

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 その瞳は、何処を見ているのかわからない眼差しで私を捉えていた。そして短い金髪を下に流し、頭の上からピンと獣耳を生やす……男の子だ。  そういえば転生する前、あの天使は獣人がどうたらこうたら言っていたけど、目の前にいる子が例の該当者なのだろうか。  獣人? もしかして貴方獣人?  と訊いたところ…… 「ぴー。びーぴー。ぴーぴーぴーぴー」  という声しか出なかった。  忘れてた。私、今鳥だった。しかも死にかけたんだった。  悲しいかな、どんなに話しかけてもこの先私の言葉を理解する人は現れないかもしれない。ハードなSMプレイがハードモードな人生を迎えることになった今、ハードモードどころかバードモードだ。  肩を(無いけど)ガックリ落とした私の横で、男の子は今だに私を見ている。  しかしこの男の子、美形である。十代前半ぐらいだろうか。無表情だが小さな顔に薄い唇、キリッとした眉毛。将来有望なイケメンになりそうな顔である。実に眼福である。目の保養である。 「アル! チエルアルコ!」  美形君は、ふいに後ろを向いて大声を上げた。その言葉の意味が分からなくて、呪文みたいだと思ってしまった。 「ハイハイどうしたの?」  人の名前かな? …………変な名前。 「鶏肉が起きた」  なんと失礼な! 私も失礼なこと思ってたけど、酷すぎる。でも会話ができないから反論もできない、悔しい!!  確かに私の今の姿はまるで鶏肉だ。でも鶏肉は死んだ鳥の肉のことを指しているから、生きてる私には使わない。この美形君わざと言ってるのだろうと思うと、ふつふつと怒りが湧いてくる。 「縁起でもないこと言わないの!」  あああ優しい! そっちの子はいい子だ天使だ!  変な名前と思ってごめんなさい!  誰か近づいてくる足音がした。きっと、注意してくれた天使のような子のものだろう。私を挟んで、美形君の反対側に来た気配がしたので、そちらの方を見た瞬間私は固まった。何故ならば、天使どころか女神様が微笑んでいたからだ。  
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