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そのパンが食べたいです。って言えたらどんなに嬉しいか。この気持ち、誰にも分からないだろう。
私の腹の虫が、代わりにキュルルルと返事をしてくれた。
「……」
「……」
私を見る美形君は相変わらず無表情だ。気まずい。何も言わないのが恐い。
美形君は無言でパンを千切って私に差し出してくれた。美形君の行動に驚いたが、何よりパンが食べられることが嬉しかった。早くこの空腹をどうにかしたい。
ありがとう! 頂きます!
「ぴーぴー」
夢中でパンを啄んだ。しかし一向に飲み込むことが出来ない。貰ったパンが思っていた以上に固く、大きい。クチバシの中に入り切れない。
クチバシには歯がなくて、噛んで食べ物を小さくする動作が出来なかった。何度クチバシに挟んでも落としそうになり、また加え直し、呑み込もうとして落としそうになる。
人間との構造が全く違う!
パンが食べたいのに生き物のように逃げ回り、早く食べたい気持ちの焦りから、次第に腹立たしくなってきた。
慣れない食べ方に悪戦苦闘する中、美形君がため息を吐いた。
「やっぱ食わないか……」
違う! 飲み込めないの! お願いパンをもうちょっと小さく千切って! 水にでも浸して柔らかくしてくれない!?
「ぴーぴー。ぴーぴーぴー。ぴー。ぴーぴー」
あああもう、言葉が通じないってすっごく不便! 手も足も使えないし、このままじゃ食べれない! それだけは避けたいのに!
「パンをクチバシの中に収まる位に千切って、そのコップの中の牛乳に浸してあげてみて?」
突如のんびりとした口調がハッキリと聞こえた。心臓が飛び出る程驚いたが、私がお願いしたかったことを代弁した台詞は百点満点をあげたい。
美形君は驚いて声がしたほうを見ている。私も気になるが、それより先にパンが食べたい。パンの方が大事。
「カエルム…―」
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