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「便所か?」
「うん、そう。フェガロは何時もの夜更かし? それ、どうしたの?」
それと言って指差したのは、パンと牛乳が入ったコップ。
「パンは夕食の時の余り。牛乳は厨房から拝借してきた」
と、美形君元いフェガロ君は、片方の口の端だけを上げて含み笑いをする。
これは何か、いけないことをしたのだな。
「……ほどほどにね。それちょっと貸して?」
苦笑いを返した彼は、パンとコップを受け取り、パンをチビチビ千切ってはコップの中に入れていく。
暫くしてから一つ摘まむと、私の前に差し出した。差し出したというより、私の頭上にある。
「染み込んだかな? はい、あーん」
……「あーん」だと?
年下に「あーん」をされるのは抵抗感がある。けれども自分の生命が関わっているのだ、しょうがない。ここは恥を捨て、彼の言う通りにしよう。
と自分に言い聞かせる。顔が熱いが、きっと気のせいだ。
私は言われるがまま、上を向いて口を大きく開けた。その瞬間、パンを摘まむカエルム君の指が喉の奥まで入ってきた。そしてそこにパンの欠片を落とすので、うえってなるかと思って暴れたが、そのまま胃に流れて行った。
そこでやっと、自分は人間とは全く違う生き物になったんだと改めて思わされる。
はあ、疲れるこの体。しかも、一回り年下の子にあーんをする日が来るとは、このこと絶体誰にも言いたくない。
味わう暇こそなかったが、腹の虫はいなくなるので良しとしよう。それにパンは柔らかくなり、大きさも丁度よかったみたいで詰まることもなかった。
兎に角、もっと食べたいので小鳥らしく鳴いてせがんでみよう。
私は鳥。私は鳥。鳥だからせがんでも可笑しくないはず。だから恥ずかしくない。
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