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「でも僕だけが逃げても、争いが有る限り、大切な人はどんどんいなくなる。僕だけ残っても……嬉しくない。だから僕は軍医になる。僕でも、少しだけでも誰かの役に立つのなら、軍医になって、誰かを助けたい。…………何かを失うのは、もう、嫌なんだ…………だからフェガロ。君もいなくならないでね」
彼のギラギラ輝く黄色い目には、暖炉の熱い火の光が写っている。だが下手すれば、彼の目の奥に潜む情熱の方が、もっと熱いかもしれない。
「お前さ、何言ってんだ?」
一刀両断した言葉により、部屋の温度が低くなった気がする。
気まずい、非常に気まずい。何故私がここにいるのだろうか、自分で自分が不思議に思う。
自分の夢と覚悟を乗せた言葉を、あっさり切り捨てられたことにより、悲しみが顔に広がるカエルム君。目には、ウルウルと涙が溜まっていく。今にも零れそうだ。
盛り上がっているところ悪いけど、若者二人が青春し合っているようにしか見えません。非常に二人が輝いて見えます。
年取ったな私……違うな。年取ってたな私、だ。
そうか、場違いだと思うのは私が中身二十三歳だからでもあるのだろう。
若いっていいなー……今は充分若すぎるけど。あれ? 私って若いのか、若くないのか? どっちなんだ?
と、自分の体を確認して悲しくなる。
「しっりしてくれ、将来の軍医さんよ。頼りにしてんだからよ」
「……え?」
はあ、と溜め息をつくフェガロ君に先程のような雰囲気は消失し、寧ろ、呆れた様子だ。
「いいか? 俺だって何時かは戦場に出る。けどよ、勝手に殺られるって決めつけんな。安心しろ、そんなアッサリ殺られないために、毎日こうやって鍛えてんだ。歩兵科舐めんな。それより自分を心配しろよ。戦場じゃあ、自分の身は自分で守るのが鉄則だ。軍医が殺られたら、一番洒落にならない」
抑揚の無い話し方。相変わらずの無表情。しかし、彼の話す言葉は何処か優しい。
ただ、歩兵科という言葉が気になる。確か、歩兵は兵士のことだ。
毎日訓練と言ったが、軍隊でも入っているのだろうか。それにしては若すぎる。何度も思うが二人はどう見ても十代前半。白虎隊じゃあるまいし、兵隊になるには若すぎる。
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