591人が本棚に入れています
本棚に追加
何だったんだろうか、今のは。突風だろうか。突風にしては、かなり強かった気もしなくもない。
直ぐに静けさは戻った。しかし先程の緩やかな雰囲気は帰って来ていない。時間そのものが沈黙しているかのように、不気味なほどに静まり返っている。静か過ぎて耳が痛い。
木の葉が擦れる音。三者三様の光と影。輝き。それ等は眠気と共に、風に飛ばされ消え去った。
代わりに、私の小さな息遣いと、よく働く心臓が聞こえる。
静か過ぎる。
この世に私しかいないように錯覚されそうだ。だからか、急に心細くなって、心がそわそわと落ち着かない。
あの光景は何だったのか。幻覚だったのか。それとも夢か。
再び太陽の光を見る。それは相変わらず光の帯を伸ばしている。
その刹那、灰色の大きな影がその光景に覆い被さり、帯は切れて辺りが薄暗くなった。
そして一秒もせずに、灰色の影が濃くなり、窓ガラスに幾何学模様を作った。
――ガシャァン
思考停止する頭に、数秒遅れてつんざく音が耳に届く。
割れたガラスが、小さな岩と化した壁の一部と共に、宙に舞った。灰色の物体はそれらを押し退け、我が物顔で進んで行く。
それはポッカリ空いた穴から登場してきた。私は目を剥いて出迎える。
そう、灰色の物体が窓と壁をぶち破いて現れたのだ。
灰色の物体は大きな影を作って、部屋の奥へと頭上を飛んでいく。その一連が、私の目にはスローモーションとなって流れている。
しかも入れてくれたお礼とばかりに、ガラスの破片は鋭い雨となって私の上に降り注ごうとしている。
これはマズイ。
第六感が警報を鳴らす。
自分の身に危険が及ぼうとしている。私は悲鳴を上げるより先に、毛布の中へ引っ込んだ。
そして一気に暗闇に包まれた。
最初のコメントを投稿しよう!