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おかしいな。聞き間違い?
その代わり、晴れる砂埃の中で予想外の物が姿を現した。
――石像だ。
しかし上半身しかない。
灰色の石で出来ているそれは、首と腕も無かった。
辛うじて、親近感を覚える造形美で、元は人の姿をした石像だということが分かる。
石像!? 何で石像が飛んで来たのだろう。
重たい石像が飛んで来るなんて、ちょっとやそっとで出来ることではないし、ましてやそう簡単に飛ばせるものでもない。
いったい、穴が空いた壁の外では、何が起こっているのだろう。
あれこれ考えるも満足の行く答えは見つからなかった。
するとにわかに、ドアの外がけたたましくなる。
複数ある足音と、飛び交う人の声が、扉の前を行ったり来たりしている。
バッタンバッタン。ガチャガチャ。ドタドタ。様々な音が入り混じる。
朝から元気な事である。
「イタタタ……全く、朝っぱら騒がしいなぁ」
本当に……って、今の声は誰のもの?
「元気すぎるのも問題だ。最近の子は物を大事にしないし、私がいるありがたみを感じないんだから。それに…―」
――私を吹っ飛ばすなんて。
ぶつぶつ文句を言う誰かの言葉が、再度耳に届く。
やっぱりこの部屋に誰かいる!
そう確信するも、人はいない。
ではこの声は誰のもの? まさか本物の幽霊のお出ましか。
血の気がサーっと引いていく。
「あれ? 何かいる?」
それは、此方の台詞である。
ななな、何、何、何!? 何がいるの!?
声の持ち主に対して「何かいる!」と悲鳴をあげたかった。でも得体の知らない者に何か言うのは憚れる。
一望しても、「何かいる」と言う“何か”、は見当たらない。
何処。何処。何処にいるの?!
「ピーピーピー」
軽くパニックに陥っていたら、楕円形な灰色の塊がゴロゴロと転がり近づいて来た。
一人でに転がるそれに、凍りつく。
それは籠の側まで来ると、ピタリと止まった。
それは人の頭だった。
恐らく、石像のもの。
睫毛さえも一本一本精巧な造りをした顔は、此方に顔を向けて目を閉じている。
声も出せずに固まっていたら、石像の硬い瞼がパチリと開いた。
光のない灰色の目が私を捉える。
そして――
「何かいると思ったら、これは雛?」と声を出したのだった。
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