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何せ夜空を見た時、白と赤の二つの月があったから、惑星や天体自体の概念すら違いそうだ。
毛布の中に戻った私はかじんだ翼や足で身体を擦りなんとか温めようとした。それと同時に、なるべく生首から自分の姿を隠そうと奮闘する。
するとフェガロ君は、モゾモゾ動いていた私が気になったのか、毛布ごと私を持ち上げた。
あ、温かい。
布越しに当ててきた、彼の手の平の熱が毛布に伝わり、私を包み込んだ。
もしかして、これって、温めようとしてくれている?
今度は軽く擦られた。そこから摩擦が生み、感覚がなかった体がじんわりと熱を帯びていく。
昨日の夜もそうだが、パンと牛乳を譲ってくれたり籠の中に戻してくれたり、何だかんだで彼は優しい。
きっと悪い子ではないと思う。
「石のように冷たい。もう死体かと思った」
……うん、時々ちょっと憎まれ口を叩くけどね。
でも、ブツクサ言う割には手を休めないし、じっと彼を見つめれば目は真剣そのものだし、悪い子ではないはず……たぶん。
それにしても、彼の緑の目が宝石のように輝いていて綺麗である。私はその色をお目にかかるのは初めてだ。
しげしげ眺めていると、緑の中に所々禿げた雛が写っているのに気がついた。
あ、これ、今の自分の姿だ。
自分の全体像を見るのも始めてだが、気分がズンと重くなった。
分かっていたけど、もう本当に人間の姿ではないことを改めさせられて、心臓が強く脈打ち早くなる。
いつもの生活はできないという現実を突き付けられた気がする。
あまり考えないようにしよう、深く考えても悲しくなるだけだ。あくまでポジティブに……そうだ、せめて早く羽が生え揃ってくれればいい。流石に女でハゲは嫌だしね。
「早く治せ。じゃないと面倒見切れない」
そうだね。気遣いありがとうフェガロ君。今は気にかけてくれるだけでありがたいよ。
そしてその口にはもう慣れた。
でも治ったところでどうやって生きたらいいんだろう。
この先の日々に望む未来はないし、人生に夢と希望がない。言葉が通じても、漠然な不安が心に積もるだけだ。
ああ、こんなんじゃだめだ。もっと暗くなる!
頭振って物思いを散らすと、気づけば目の先に彼の顔があった。
私は深緑のような瞳に見つめられていたのだ。
一回り年下の子でも、綺麗な顔の人に見つめられると居心地悪い。
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