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何で私が見つめられているの?
私が彼の目を見つめていたのは、緑の目が珍しかったのと、そこに写る自分を見たかったから。しかし、彼が私を見つめる理由は分からない。
お互い見つめ合う、奇妙な時間が流れた。それが長く感じたので、思わず視線を下へ外した。
当たり前だが、そこには生首がいた。
「ちょっとちょっと、ちゃんと聞きたまえ。私が大事な話をしているのだよ! ここからがいいところなのだよ!」
ゴロゴロ音を立てながら、生首はフェガロ君の周りを転がっている。
私の視線に気づいた生首は、ニヤリと笑い、一層激しく周った。そして回った。
「ほら、そこの雛は私の話をちゃんと聞いてるよ。人の話は目を見て話せと教えられただろうフェガロフォス君!」
正直喧しい。
……見なかったことにしよう。そうしよう。
私は分かった。あの生首には関わってはいけないと。本能が私に語り掛ける。
フェガロ君と目をもう一度合わす勇気はないが、目の行き場もないので、諦めて視線を戻そうとした瞬間、摩擦よりも暖かい空気が身体に触れた。
私は驚いて息を吸うのを忘れた。
目の前には緑の目を持つ少年の顔。
硬直する私を余所に、彼の唇から白い霧と暖かい空気が絡み合いながら出て来て、私に纏う冷気を下げた。
今、自分の身に何が起こっているのか理解した瞬間、一気に身体中の血液が沸騰した。
恥ずかしいとか、顔が熱いとか、そんなレベルの言葉では表現しきれない羞恥心が私を襲う。
出そうとした悲鳴は喉に貼り付いている。
私は彼の息で温められているのだ。
生前、彼氏に手でさえ、そんな風にして貰ったことはない。
フェガロ君は再度、自分の掌を温めるように、私に息を吹き掛ける。
いい! いい! 充分暖まったから! 寧ろ熱いくらいだから!
カエルム君の「あーん」の時より、よっぽど恥ずかしい。
ちょっと前まで、彼がいい子だとか、優しいとか、心を許しかけた自分がいた。が、今はそんな風に思った私が馬鹿だったと思う。
やっぱりこの子苦手かも!
フェガロ君は更に息で温めてくれる。
あ、ミントの香り。爽やかだな~~、って変態か私!! お願いだから止めてーー!
願うなら、言葉でその優しさを表して欲しかった。
そう願うも、止まることはない。
彼の優しさが、今では憎い。
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