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「取り合えず、先生を呼ぼう」
「その前にその鳥を隠すのが先なんじゃなぁい?」
濁った空気を洗い流すような、透き通った声がした。
いつからいたのか。壁の穴の向こうから、声の主と思われる女の子が頬杖をついて、こちらの様子を伺っていた。
女の子とは珍しい。
この部屋にいるのは、ほぼ男子である。女子が全くいないわけではないが、圧倒的に少ない。
その子は青紫色のショートボブから、角が丸い獣耳を生やしていた。
「ラージ!?」
フェガロ君と悪魔君の声が重なった。
ラージちゃんというのか。うーん、十二~十五位の年齢かな?
「何でお前がここにいるんだよ」
「いやぁね、心配だから来てあげたんじゃないの」
フェガロ君にお前呼ばりされたラージちゃんは、小さな口に手を当てて、「フフっ」と笑った。
「私今日、朝番なの。だから見回りをしていたんだけど、そしたら突然突風に襲われて、その時こっちの方角に石像が飛んでいくのを見た、ってわけ」
彼女はニコニコ楽しそうに言うが、目が笑ってない。
何だろうこの子。
この子から得体の知れない恐怖を感じる。
「お前いつからいたんだ?」
やや殺気立った強い口調でフェガロ君が訊いた。
「最初から」
最初からって。
そんな回答では、壁に穴が開いた時なのか、それともフェガロ君が来た辺りなのか、全くハッキリしないではないか。
「ああそうだ、貴方達に訊きたいことがあったの」
――丁度いい機会ね。
と言うと、彼女の赤紫色の瞳が獲物を見つけた猛獣の目に変わった。
「昨日の夜、夜番をサボって帝国管轄の森に入り、夜にしか咲かない花を見に行った生徒がいたらしいの。その二人は帰りに雛を拾ったんだって」
その話を聞いて、私はある一点の可能性が思い浮かぶ。
――いや、でも……まさか。
「ま、流石にそんな生徒がいるわけないわよねぇ? そう、例え、今雛を持っているのが張本人とは限らないしぃ? 彼の寮長が共犯者とも言えないしぃ? 本当、誰なんだろ?」
「貴方達は知ってる?」と更に彼女は訊いてきた。
余裕な表情を見せる彼女とは裏腹に、悪魔君の顔は引きつっている。
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