第1章 『犬も歩けば棒に当たる』

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 家と仕事場の往復で数週間が過ぎた。  花粉症は改善の兆しを見せず、目は充血し、鼻柱は真っ赤だ。  時間だけが、過ぎた。  復縁したはずの彼女から連絡は来ない。  昨夜、携帯電話のメールで『花粉症が辛くて電話、無理だ』と彼女にメッセージを送って見たが、返信は無い。  仕事は落ち着いて来たが、例のミス以降、社内の俺に対する視線は冷やかだ。  向こうの担当は、そこまで怒っていないのに。  サブローはまだ小屋から出てこない。  俺のいない昼間は出ているのか?  それはわからない。  サブローは10年前から飼っている我が家の犬だ。 全身黒毛の雑種。尻尾の先のみが白い。  特に芸も持っていない。飼い主家族に尻尾を振るぐらいが芸と言える。  しょっちゅう散歩の催促をしてくる。  ついついそれに釣られて、散歩に行く。  『サブロー』という名前は俺が付けた。大学時代の友人の名前だ。  散歩は主に俺がいく。その時は尻尾が千切れるほど振るのが可愛らしい。  そんなサブローを今まで気にした事はなかった。
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