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絶句。
どう見ても魚だ。
人間の男の子なんて影も形も見えない。
これは幻覚か?
雷にうたれたのはミズキ自身なのか?
仮にただの魚だろうと、男の子だろうと、水は必要だ。
混乱する頭でそう結論付ける。
飲ませるではなく、つかる水が必要だ。
魚の意識はないようだった。
つついてみても、そのまぶたは閉じられたまま、反応もない。
こわごわ、両手でつかんでみる。
魚はぐったりしたまま動かない。
思い出したように、辺りを確認する。
注意すべき人影は見当たらない。
充分だ。
ミズキはできるだけ魚を身体から遠ざけて持ち、水飲み場まで早足で運んだ。
この公園の水飲み場は、水が出てくるところが二か所ある。
レバーを操作して噴水のように水を出すところと、ハンドルをひねって蛇口から下向きに水が出てくるところだ。
ミズキは蛇口の下に魚を置き、ゆっくりと水を出した。
蛇口につながる金属パイプの中から、水がのぼってくる。
はやる気持ちがおさえきれず、ミズキはその場で軽くジャンプした。
ついに来た!
透明な水が、魚に容赦なく降りかかる。
ミズキは自分の手でも水を受け、優しく魚にかけてやった。
魚のまぶたが、ひくついた。
はっとして、水をかける手を止める。
魚にまぶたがあったとは初めて知った。
数歩、後ずさりして様子を見守る。
とっさのことに蛇口を閉め忘れてしまったが、今さら閉めに行く勇気はない。
うっすらと目の開いた魚の身体が伸びた。
猫のように伸びをしたのではない。
物理的にありえない程、その胴が伸びたのだ。
尾は足に、鱗は消えて、肌の色が黄色を帯びた白へと変わる。
えらとひれは引っ込んで、手ができる。
髪が生える。鼻が出てくる。
男の子は、蛇口からあふれるままの水を背中に浴び、四つん這いになったまま、げほごほと咳き込んだ。
「た、助かった……」
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