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ざばり。
身体が水から引き上げられる。
首根っこを万力のような力で掴まれ、締め上げられ、私は空気を求めてぱくぱくと喘いだ。
池の外の空気が、針のごとく私の身体を突き刺す。
夜の女神はまだその着物に星々をきらめかせているが、かすむ目には、昼の神の頭がもうすぐそこまで来ていると見て取れた。
若殿に呼びかけようとするが、その声すら出てこない。
私はこの池から出てはならない。
若殿もそれは知っているはずなのに。
このままでは、良くないことが起こる。
若殿は私を掴んだまま、池から上がる。
いけない。
私は、池に帰らなくては。
ここから離れるわけにはいかないのだ。
身体をばたつかせ、その手の内から滑り出ようとする。
持てる限りの力で、若殿の手から逃れようとする。
「わっ、こら、暴れるな」
若殿は、私を思いきり地面に放り投げた。
私との攻防に不利を感じたのか、池には逃すまいとしたのか。
だが若殿は、自分の力がいかに強いかを知らなかった。
もしくは、力の加減を間違ってしまったのだろう。
勢い余った私は、そのまま大地をつきぬけてしまった。
下界へ、落ちたのだ。
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