時歪の時計

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「うっ、な、なんだ」  アキの後ろの暗闇が異様なほどに広がっている気がした。大きな誰かがいるのかも。逃げたほうがいいのかもしれない。そう思ったら、可愛らしい女性がひとり登場した。同い年くらいだろうか。 「阿呆、一目惚れするんじゃないぞ」 「な、何を。一目惚れなどしていない。可愛いと思っただけだろうが」 「ふん、どうだか」 「ぼくは、好き」  アキが無表情ながらはっきりと感情を露わにするとは。 「おまえ、勘違いするなよ。アキは母ちゃんみたいに優しそうだから『好き』だと口にしたんだからな」  そうなのか。どうやら、全部聞き取れなかったらしい。まだまだダメだ。  それにしても、この女性も幽霊のようだ。いや、違うか。薄らと糸のようなものが彼女の身体から暗闇へと繋がっている。あれは、いったいなんだろう。 「ふん、阿呆にも見えるようだな。あれは命の糸だ。あの糸が切れた瞬間、この世とお別れってこった。放っておいたらあの世行きだ。だが、あの世へいくべき存在じゃなさそうだぞ」 「どういうことだ?」 「それは……」  アキが話そうとし始めたが、言葉がはっきりしない。と思った矢先、暗闇から 「わしから説明しようかな」と声とともに栄三郎が現れた。 「栄三郎、こやつときちんと引き継ぎせい。代々阿呆な家系で困りものだ」 「すまん、すまん」  そんなこんなで、話しは続いた。
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